01

熱い再会
栗山 誠一

人間の気持ちとは不思議なもので、当時は強烈に感動したことでも時間と日時、年数を経るごとに薄れていく。そんなことはない。強烈な感動であればあるほど、心に残ると反論もあろうが年数が経てば多少なりとも薄れるものである。私の経験した感動した話を披露しよう。

昭和55年7月下旬、暑さの厳しい日が続く毎日であった。そのころ、私は商用で群馬県前橋市市内の開業医を訪れていた。初老の立派な医師は私の名刺を凝視していた。「文京区本郷から来たのかね。本郷はどのあたりかい」としきりに聞いてくる。戦前戦中戦後、生まれも育ちも本郷の私は、医師と年齢の差こそあるが話はよく解かった。私は「先生は出身小学校どちらですか」と訪ねた。「湯島小学校」との返事が返ってきた。医師は私の先輩だった。

医師は古いアルバムを取り出してきた。戦火の中でも、これだけは手放さず大切に持って逃げたと見せてくれたのは湯島小学校の卒業アルバムであった。セピア色に変色していたが懐かしい校舎である。この場所で飛び降りて足をくじいたとか懐かしそうに話をしてくれた。『古タヌキ』『湯島の主』と称された私の担任の先生も写っていた。私の卒業時には見事に頭が光っていたが、写真では新人の若い教師であった。

医師は感慨深げに一人の同級生を指さして、この友達に逢いたい。家も近くでいつも一緒に遊んでいた。(このころは戦争で皆がちりぢり生死は不明だが生きていれば逢いたい)40年以上経過しているが再会は無理だろうなと半分あきらめの表情がうかがえた。

「どこまでお役に立てるか不明ですが本郷に住んでいて土地勘もあるし探してみましょう」
よせばよいのに約束してしまった。医師の記憶していることを詳しく聞き出して大体の見当はついた。

日ごろ同窓会の幹事をしている私は、学校時代の友達のありがたさ貴重さは十分知り尽くしている。帰京後、人探し開始である。まずは小学校に出向いて理由を話し名簿の有無を尋ねた。今なら個人情報だからと相手にされないが当時はそんなことなく探してくれたが、戦争のドサクサで欠けているとのことで、第一回目の挫折。

こうなれば聞き込みである。足を棒にして聞き込みを続けたが何せ古い話で聞かれた方もチンプンカン。容赦なく照り続ける熱い陽射しのなか、今日も昨日も駄目という日が続いた。父親から『仕事しろ』と怒られたが、我慢してくれ、目をつむってくれと頼み込み探し廻った。靴を一足駄目にする覚悟もした。

雲をつかむような話に聞かれた人から変人扱いされたり、暑さでやられた頭のおかしい奴とも思われたろう。さもありなん。湯島一丁目から四丁目まで4ブロックに分けて毎日聞き込みをした。なるべく高齢者に重点を置いて足を運んでみたものの結果は同じであった。約束した先生にぬか喜びをさせてしまった責任を申し訳ない罪悪感が私の心を責め立てた。

これだけ探したのだから私の誠意を汲んでもらおうと思い、電話の受話器に手をのばしたが、取り上げられない。そこで一計を思いついた。同窓会の幹事をしている私だから他の幹事の知恵を借りようと、あちらこちら聞いたが結果は同じ。もう諦めるより仕方ない。これで決心はついた。だが私の心の中にはもう一人の私がいた。「お前、そんなに簡単にあきらめるのか。今までの努力はどうした。

私の小学校の同級生に同じ名前の女性がいる。駄目だと思うが電話してみよう。電話すると受話器の中から明るいはずんだ声が聞こえてくる。
「あなたと名字が同じなので聞くけれどKさんは知らないか?」と尋ねると、「Kさんは私の叔父さんよ」との答え。「万歳」思わず叫んでしまった。

叔父さんは存命かと聞くと、元気に北海道の夕張市で暮らしているとの返事。夕張市にいるのなら湯島本郷を探しまわっても見つかるはずがない。前橋市の医師があなたの叔父さんのKさんを血眼になって探している。連絡をとってくれと、しつこく何度も繰り返した。後日、連絡をとったかと、友人に連絡した。私もかなりしつこい。

やがて9月になり夏ほどではないが残暑の頃、前橋市の医師から私に連絡があり、理由も聞かされないまま訪ねてみると、今日ここにKさんが来るという。40年ぶりの再会だと声をはずませている。

やがてKさんが訪ねてきた。無言でお互いに顔を見つめ握手を力強く。そのうち二人の目からは熱い涙がこぼれ、初老の男同士の涙に私ももらい泣きした。

「よくぞ探してくれた。君には感謝しつくせない」

40何年の空白はなく、一瞬にして「Kちゃん」「Sちゃん」である。戦争がなければ穏やかに友情を育てられたろうが、その分を取り戻そうと夢中で話をしていた。


今も同窓会幹事をしている私の提案だが、何年も逢っていない友人がいたら、連絡してみてはいかがだろうか。

同窓会の通知をすると「同窓会は功なり名をあげた奴が集まればいい」と男。「着ていくものがない」と女。

バカ野郎。同窓会では地位も肩書も通用しない。鼻たらしの○○ちゃん以外通用しない。着ていくものは何でも良い。きれいに洗濯してあればそれで充分。元気な姿を見せ合い、一気にむかしの・・・ちゃんになりきっての会話は楽しく時を忘れさせてくれるのだ。

(東京都発信)

01

彩風号に戻る  Topに戻る