記憶をたどると、心地よい切なさが追いかけてきます。
たまには、心のアルバムを深呼吸させてみるのもいいものです。
今とは、ちょっと違ったしあわせな時間を散歩してみませんか。
ぬくもりアーティスト高木政史さんによるなつかしい風景をお楽しみください。
〈いまだかって百まであんなに早く数えたことはない〉
家の朝は目覚まし時計でなく、お父さんの薪割りの音でみんな起きた。



「どうして、もうお母さんとお風呂に入らなくなったの」おばあちゃんに教えて。
「うーん。」
星を見ているように母さんが見えた。
明日からお風呂屋さんに行っていいでしょ。


子ども」背伸びして番台にお金を置いた。
籠(かご)も背伸びして取り、服を脱いだ。
「お、家に風呂あるんじゃなかったか」
と言ったのは棟梁(とうりょう)。
「壊れたから」と棟梁に嘘をついた。
「お、はじめてか、体を流してから入れ」
と言ったのは肉屋のお兄ちゃん。
「こっちに入ってみるか、ただし、100だぞ」
入れないと言うのがいやで、お兄ちゃんと棟梁のおじいちゃんが入っている大人の風呂に。
足の親指がしびれ、体中がしびれ、
お兄ちゃんは百を数える前に
「アッー、こんな風呂は入ってられねー」と飛び出した。
1,2,3・・・100」
声が大きかったせいか、みんな笑った。
おじいちゃんは死んでいるかのように入り、突然浪曲まで唸り始めた。
アツーイお風呂から上がったときには、背中の黒い鯉が、赤い鯉に変わっていた。



「どうだった、お風呂屋さんは」
楽しかったよと母さんにはじめて嘘をついた。

2008.2.11

Copyright MASASHI TAKAGI
ビタミンYOU 高木政史個展「昭和のビタミンアルバム」開催中
これからの発信予定 これまでの作品
2カ所の雪だるまの運命  2008.2.25
地盤沈下か河童のいたずらか 2008.3.10
1回だけ 2008.3.24
上天丼にはえび3本 2008.4.7

おじいちゃん、炬燵にはいりなよ
足踏みミシン
ゼンマイ仕掛けの柱時計
すみません。おじいちゃん、おばあちゃん
魔法のやかん