記憶をたどると、心地よい切なさが追いかけてきます。
たまには、心のアルバムを深呼吸させてみるのもいいものです。
今とは、ちょっと違ったしあわせな時間を散歩してみませんか。
ぬくもりアーティスト高木政史さんによるなつかしい風景をお楽しみください。
〈2ヶ所の雪だるまの運命〉
転校してきてすぐに、占い師の子は番長になった。
番長は子分を連れ「また答えまちがえて、立たされていたな」とぼくに言った。その後もいじめは続いた。
ぼくの我慢も、イエローカードが出、ついにレッドカードが出たときのことでした。
そこに現れてくれたのは、やはり転校生の女の子。すぐに天使に見えた子が両手を広げ「あんた私のこと好きなんでしょ」と番長に言った。いじめは終わった。そのときぼくは、ぼくを絶対守ってくれる人と一生いようと思ってしまった。その考えが後々まで響くことになった。
ありがとう、一緒に帰ろう。都電の線路を渡ったところにぼくの大好きなところがあるんだ、行こう・・・。


一日中、陽が当たらない路地の奥のBARに猫が集まってくる。
「ここに来ちゃいけないと言っているでしょう。ご飯用意しといたから夕刊持って、さっさと帰りな」
女の子は、ここの子だったんだ。
ここでは天使の翼は折れていた。

服の汚れを見て「またいじめられたんだな」とぼくに言ったのは、店の奥から出てきた酒屋のおじさんだった。
「うちの坊主、また助けなかったんだ」
「今日は帰りが一緒じゃなかったから」
「じゃ今ごろ廊下でバケツを持たされて立たされているな」
「うん」とは言えなかった。

天使のママと酒屋のおじさんは再婚となるので反対され続けた。
「あんたたち猫は、字が読めなくていいよ」
あのいんちき占い師め
ここに来る猫たちは占い師さんのところにいた猫だった。
夜、このBARの路地に入る門の下駄屋さんの前で占い師さんは占っている。

寒い寒い日も「あんたたち猫は、字が読めなくていいよ」
いんちき占い師と言いながらも、おばさんは猫に話しかけミルクをあげていた。
「おっ、雪、あんた雪だよ」酒屋さんのおじさんも店から飛び出てきた。
はじめて、おじさんとおばさんの笑う顔を見た喜ぶ姿に、猫たちは驚き逃げ遠くで様子を見ていた。
少しだけれど雪が積もった。
BARの看板の横に小さな雪だるまが2つ寄り添っていた。ここの雪だるまと2人の仲は永遠と感じた。
「あ、雪だるまこわれちゃったね」
「占い師が酔っぱらって倒れて、こわしちゃったんだよ」

ぼくはのらくろの貯金箱をこわした。
「おじさん、これだけで一つ占って」
「まあ、ひまだから、いいか」
「今の好きな子と結婚できる」
「手を見せろ。ひびだらけだな――」

答えは早かった「無理だなあ」
ぼくも、おばさんの言うとおり、いんちき占い師・・・と思った。

その翌日、店のドアに閉店の紙がはられていた。そして猫も占い師も町から見えなくなった。
後で占い師と天使のママが一緒になったとわかった。そしてすぐ別れたとも知った。
酒屋のおじさんは、お酒の量が増え病気になり倒れてしまった。


「あ、私のこと覚えている」
「天使は忘れないよ――」
天使の翼は輝いていた。
「よっ」ビールケースを担ぎ出てきたのは酒屋の3代目。
「お前、相変わらず弱々しいな、ちゃんと飯食っているのか」
ぼくは、酔ったついでに靴屋さんの前に出ている占い師に見てもらうことにした。
お――、確かお前は一発レッドカード男でフーリガン。お前は知っているぞと言いたかったが、私は黙って聞いた。
「今、再会した人と結婚できますか」
「無理」2代続けて答えは早かった。彼は俺のことを忘れていなかった。2代続くいんちき占い師め。

私と酒屋と占い師は天使の店に通った。
酒屋の3代目は若いから反対された。彼は一度もオフサイドがなかった。
彼は親父が死ぬまでは絶対に離婚はしないから結婚させてくれと言った。
体が不自由ながらも店に立つおじさんは
「じゃ長生きしなくちゃなあ」と言い、結婚を応援した。

「私、字が読めなくてだまされ続けた母さんのようになりたくないの。彼の笑顔が大好き。
私、私を守ってくれる人がいいの」

ぼくは占いが当たったとわかると、今後を見てもらいに行った。占い師は町から消えていた。
今、関西のサッカースタジアムの前にでているらしい。当たると評判になり、マスコミに取り上げられはじめている。


結婚式の日は雪。
翌日、酒屋の店の前に小さな2つの雪だるまが寄り添っていた。
2人の仲が熱いのと、日当たりがいい店のせいか、2つの雪だるまは、あっという間に、見えなくなった。
酒屋のおじさんは今も生きている。
Copyright MASASHI TAKAGI
ビタミンYOU 高木政史個展「昭和のビタミンアルバム」開催中
これからの発信予定 これまでの作品
地盤沈下か河童のいたずらか 2008.3.10
1回だけ 2008.3.24
上天丼にはえび3本 2008.4.7

おじいちゃん、炬燵にはいりなよ
足踏みミシン
ゼンマイ仕掛けの柱時計
すみません。おじいちゃん、おばあちゃん
魔法のやかん
いまだかって百まであんなに早く数えたことはない