記憶をたどると、心地よい切なさが追いかけてきます。
たまには、心のアルバムを深呼吸させてみるのもいいものです。
今とは、ちょっと違ったしあわせな時間を散歩してみませんか。
ぬくもりアーティスト高木政史さんによるなつかしい風景をお楽しみください。
〈地盤沈下か河童のいたずらか〉
おじちゃんの背中の入れ墨の鯉元気
若いときは汗がきれいだったから元気だったけど、最近汗の出が悪くて鯉のやつ、口を開けてプカプカ浮いているよ。
お酒の量が減ったからだなあ――

もう少し腰を入れ、足をふんばって鉋(かんな)掛けろよ。
お茶が入りましたよ。
棟梁たちは、お酒にしましたよ。
おっ、鯉が飛び跳ねているよ。

鉋屑(かんなくず)、木屑(きくず)は煮炊きに役立つ、鉋屑は紙より火がつきやすかった。
屑は無駄になることはなかった。

お兄ちゃん、家の犬小屋ガタガタしているよ。犬は小屋に入らずにまた縁側の下で寝ているよ。
大学の建築科出の初仕事に間違えはねえ。地球はでこぼこしているんだぞ、小石でもかっとけ。

おめいの家(うち)は江戸時代から続いている大工の家だぞ。
かっこ悪い仕事は許さんぞ、早速明日直しに行け。

朝一番に来た。
やっぱりな矩尺(かねじゃく)を使ったからだ。そうか尺とセンチの勘違いだ。
ここの土地曲がってるんじゃねえか
結局全部足切ってガタガタいわなくなった。

あれっ、この縁側ガタきてるね。確か、親父がやった仕事だよなあ。
よし、俺が直してやる。おじいさん。
家のおじいさんと棟梁はなんでも言い合える友達。いいのか息子に任せて。
跡取りができて良かったじゃねえか、まあゆっくり育てていけばいいよ。

あれ、あれ、前の縁側より横が短いよ。
どうした。俺が100年持つと建てた家の縁側だぞ。
棟梁まあいい。あいた横犬小屋と思っていたよ。
まあ、それより、一杯飲もう。その言葉うれしいねえ。
そうだな、おめいは帰って仕事の続きだ。

仕事を終えた後のお酒と話に、
ぼくも早く大人になりたいと思った。

よっ、また息子のやつ間違えちゃったよ。
今度は100年木の一本柱きりすぎちゃった。

神社の鳥居図面より短いんだ。ここだけだぞ。
そのうえ、片方に少し傾いているんだ。
息子のやつ、地盤沈下しちゃったと話せば済むだと。
俺、今も神様に謝ってきたよ。

昔、昔、河童がいた溜池があったそうだ。
女百姓だけ悪さをする河童を大人しくするために
神社を建てた。そうすると池は干上がり、
河童がいなくなったと言われているから
まんざら嘘じゃねえかもよ。
だから女性参拝者が多いのか。
100年持つと言っている家、住んでいるぼくは100年は無理と感じている。
最近ビー玉を置いておくと、少しずつ動き初め隅に集まっている。
何しろ棟梁は町中のことを知っている。困ったことが起こると、一番に飛んできてくれる。
この頃、足が悪く口もますます悪くなり、お兄ちゃんが棟梁に代わり、どこだ、どこだと町中走り廻っている。
Copyright MASASHI TAKAGI
ビタミンYOU 高木政史個展「昭和のビタミンアルバム」開催中
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