記憶をたどると、心地よい切なさが追いかけてきます。
たまには、心のアルバムを深呼吸させてみるのもいいものです。
今とは、ちょっと違ったしあわせな時間を散歩してみませんか。
ぬくもりアーティスト高木政史さんによるなつかしい風景をお楽しみください。
〈いいからおいしいから食べてみなさい〉
今日は何を食べようか。

ぼくは元気のないおばあちゃんに、水団(すいとん)を作ってあげようよと言った。

「作りかた知っているの」
「知っているよ」

おばあちゃんの水団には、自慢と苦労話が入っている。

「春の七草知っているかい」
「これは食べられるんだよ。この草も」
はこべと草の名を知った。

道ばたに生えている草が食べられるとは思わなかった。
そしてもっと驚いたのは、おばあちゃんが、その草を水団に入れたことだった。

今は、卵やお出汁(だし)をいれるから昔よりおいしいよ。
いいから、おいしいから食べてみなさい。

迷っていたのは、犬がよくオシッコをしているところの草かと思うと・・・。

目をつぶって食べた。おいしかった。




「おばあちゃんに、フウーフウーして水団を食べさせてあげた。
冥土のみやげになった・・・と言ってからしばらくして、おばあちゃんは水団も食べられなくなった。




年を取ったせいか、脂濃いものよりさっぱりしたものの方が好きになった。
不思議に弱気になるとき、まだまだ冥土のみやげにはしたくないが、七草と自分の苦労、自慢話が入った水団を食べてみたくなる。

よし、明日こそ・・・作るか。
・・・来週、一年後か。
また冥土でおばあちゃんに作ってもらうのか・・・。
Copyright MASASHI TAKAGI
ビタミンYOU 高木政史個展「昭和のビタミンアルバム」開催中
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